われおもうに

ところで1年前の「国難」って…

北朝鮮のミサイル実験

昨年(2017年)は北朝鮮の核ミサイル開発がまさに佳境を迎えていて、発射実験がほぼ毎月行われていた。Wikipediaによると、2月1回、3月2回、4月3回、5月3回、6月1回、7月2回、8月2回、9月2回、そして11月1回の計17回。最後の11月29日に打ち上げられた「火星15」は大陸間弾道ミサイル(ICBM)と言われ、初めて東海岸を含む米国全土を射程に収めた弾道ミサイルであるとされた。

その影響で昨年は日本中がヒステリー状態に陥っていた。発射のたびに報道されたし、政府もいちいち過剰反応していた。まるで日本に向けてミサイルが発射されているみたいだった。8月と9月にはミサイル発射後「Jアラート」を発報して戦時中の空襲警報を彷彿とさせてくれたし、9月末の「国難突破解散」に当たっては北朝鮮問題(?)も解散理由の一つに挙げたほどだ。バカみたいだけど。(しかも与党が圧勝した。)

ピントが外れてたよね

普通に考えば北朝鮮がアメリカしか見ていないことは明らかだった。開発していたのはアメリカ本土まで届くミサイルだったのだから当然だろう。日本を射程に据えたミサイルの開発なんて四半世紀も前に終わっているのだ。北朝鮮から海に向けて撃てば必ず日本の上空を通る。陸に向けて撃てば中国やロシアの国内に落ちてしまうから、海に向けて撃つ以外に選択肢はない……それだけの話だ。

技術が未熟だから失敗する可能性がある、失敗すれば破片が日本に落ちてくると騒がれていたが、日本上空を通ったころには宇宙空間に達していた。こんなことは専門家はみんな分かっていたのではなかろうか。確率から言えば、1発の実験ミサイルが爆裂して破片が降ってくる確率よりも、現在地球を周回している人工衛星や隕石が落ちてくる確率のほうがよっぽど高かったはずだ。しかも、日本人が見下していた技術力も相当なレベルに達していたようだし。

もちろん北朝鮮が核兵器を開発するのは世界平和に対する犯罪だ。それは批判されなければならない。というか日本はその点にこそ断固とした意思を持って立ち向かうべきだったはずだ——もちろん外交的に。しかし、昨年の日本は外交をシャットアウトしたまま被害妄想の集団ヒステリーに陥り右往左往するだけだった。日本をただ飛び越えていくだけの、したがって被害を受ける可能性などほとんどない実験ミサイルをただただ怖がっていただけ。完全にピントが外れていた。あれを国難だなんだと騒ぐのはまったくのお門違いだろうという話だ。というか、どう考えても作られた「国難」だった。

強いて言えば、本当の「国難」は別のところに

恐れなければならない事態はむしろ別のところにあったはずだ。アメリカによる北朝鮮への先制攻撃だ。トランプが大統領になって、あり得ないこととは言えなくなっていた。トランプ自身がそれをほのめかすような発言をしていたし、報道でもたびたび取り上げられていた。これも確率としてはほぼゼロに近いものだったとは思うが、ミサイルの破片が落ちてくる確率よりは少し高かったような気がするのだが。

本当の国難があるとしたら、こちらのほうだったはずだ。

仮に実行されてしまったら、たぶん北朝鮮は“米軍”に反撃するのだと思う。日本ではなく米軍基地。よく分からないけれど。で、そうなったら、一発のミサイルをやり過ごすための準備や訓練なんてまるで意味がない。ビルに逃げ込んだり、窓から離れたところに身を伏せていれば(政府はそんな指導をしていた)終わるものではないのだから。

「国難突破」のために政府がしなければならなかったのは、トランプにそれをさせない努力だったはずだ。たとえ限りなくゼロに近いとしても、わずかでも可能性があるのなら「トランプくん、キミね、早まったことはしてくれるなよ、分かってるね」と釘を刺してほしかったんだけど。

したのか?

何もしてないだろうと思うのは僕だけかな。そして万が一トランプが先制攻撃をしてしまっても、「日米は100%共にある」などと例によって滑舌悪く言うんだろうな安倍首相は、と思うのは。