朝日新聞をネットの紙面ビューアーで読んでいたら、紫綬褒章受賞が決まった囲碁棋士の趙治勲(ちょう・ちくん/チョ・チフン)さんのコメントが目にとまった。
叙勲とか褒賞にはまったく関心がないから、受賞コメントを読むことなど滅多にないのだが、今回は作家の川上弘美さんと趙さんの二人が取り上げられていて、川上さんのを読んだついでに趙さんのも読んだのだった。趙さんの写真も目を惹いたし。
ちなみに趙棋士について詳しいことは何も知らない。
名前は若い頃からよく目にしていたし、囲碁界の第一人者という認識はあったけれど、囲碁自体に興味がなかったから、彼が日本に住んでいるのか韓国に住んでいるのかさえ知らなかった。この記事で自分とそれほど年齢が変わらないことを知って驚いたほどだ。

ほんの800字あまりの短い記事で、とくに珍しい事は何も言ってないんだけれど、この方の性格も、苦労も、歩んだ道もちゃんと伝わってくる——と思った。
でも、最後にボケをかましてくるから、「えっ?」となった。
ギャグ?
一度そう思うと、冒頭の「僕の人間性が初めて認められたような気がして、うれしいですね」からして怪しい。自虐と皮肉をわざとスピーチ定型句に押し込んで、笑わせに来てる?
だったら、「ずっと日本にいて…たくさんの幸せをもらって感謝しかない」とか「日本の人にも、韓国の人にも愛されたい」というありふれたフレーズも臭う。どちらも定型句っぽくて、破天荒で知られたこの方にしてはお行儀が良すぎるのだ。
そして最後に「愛される芸風ではないけどね」でストンと落とす。
面白い。
すべて正直な言葉なのかも知れないから、その場合はゴメンナサイなんだけど、たった800字の文章で3倍ぐらい楽しませてもらった。
朝日の記事のテキストも一応載せておく。
(リンクを貼っても、いずれ読めなくなるかもしれないから。)
受章のことばを、この人らしくちゃめっけたっぷりに語った。「むかしタイトルを取っていたころは、よく言われたもんです。あいつは碁が強いけど、人間がダメだと。僕の人間性が初めて認められたような気がして、うれしいですね」
6歳で韓国から来日。当時世界最強の日本で名人になる期待を背負わされていた。碁の勉強そっちのけで遊んでばかりいる少年は、兄に叱られて「頼みもしないのに、なんで日本に連れてきた」と叫んだ。
成長とともに勝負の鬼と化し、「負けたら明日はない」のことばは広く喧伝(けんでん)された。通算74タイトル、1533勝は歴代1位。なお一線で戦い続ける。
「ずっと日本にいて、奥さんをもらって、2人の子どもに恵まれ、家も建てて。日本でたくさんの幸せをもらって感謝しかない」。一方で、年をとるほどに故国への思慕も強まる。
厳しい日韓関係のニュースを見聞きするたびに心が曇る。「どちらも僕にとってかけがえのない国。日本に住む韓国人として、日本を愛し、日本の人にも、韓国の人にも愛されたい。愛される芸風ではないけどね」(大出公二)
朝日新聞2019年5月21日