お気軽な話

シチズンのエコドライブすげえ!

写真の時計は、CITIZEN「プロマスター タフ」のおそらく初代モデルで、珍しく残っていた保証書によると、僕はこれを1999年4月5日に購入している。

22年前。

当時としては自分史上もっとも高価な腕時計だった。定価33,000円。経済的な余裕が出来る前のことだから、なんとも悩ましい金額だ。手が届かないわけではないが、身の回りのモノにそんな大金を出したことがない。欲しいと思ってから実際に買うまでには何か月かかかったような気がする。

光発電Eco-Driveというメカニズム

不遇なアウトドア系ウォッチ

ただ、実際に購入してみると意外と相性が悪くて、結局のところ一度もメインの時計として使うことはなかった。その辺のことは長くなるから割愛するが、結果的にこの時計は、22年間のほとんどをタンスの上とか本棚の棚とか腕時計収納ケースの中で過ごすという、アウトドア系のルックスからはほど遠い、かなり不遇の人生(?)を歩んできたのである。

これがふつうのクオーツ時計であれば、2年もすれば電池が切れ、残りの20年間はピクリともせずに過ぎ去っただろう。電池交換をしない限り二度と動き出すことはない。一方、もし機械式時計だったら2日ほどで止まってしまっただろうが、たとえその後の22年間放置されたままだったとしても、ゼンマイを巻きさえすれば何事もなかったかのように動き出すに違いない。

電池不要 〜画期的な技術革新〜

でも、この時計はそのどちらでもない。

クオーツ時計ではあるが、それを動かすのに電池を必要としないのである。シチズンご自慢の光発電Eco-Driveというメカニズムが搭載されていて、それが生み出す電力によってクオーツを駆動するのだ。ソーラー時計と言うほうが通りがいいかもしれない。しかも、太陽光だけでなく室内照明でもちゃんと充電される。

これは画期的な技術革新だった。

当時すでに機械式時計は完全に駆逐され、売られている時計のほとんどがクオーツ式だった。ウソみたいに安価なものでもほとんど狂うことがなく、しかも軽い。その唯一のネックが電池交換だった。掛け時計なら裏返して単三電池を入れ替えるだけで済むが、腕時計は時計店で替えてもらうしかなかった。場合によっては時計本体より高くつくこともある。

その電池交換から開放されるのだ。

で、現状を報告すると、22年間放置したままだったこの時計は今日も正確に時を刻んでいる。より正確な言い方をするなら、長らく家の片隅で動きを止めていたのだが、陽の当たる場所に引っ張り出したら、見事に動き出したのである。

その復活の仕方が、やはり電池式のクオーツ時計とも機械式時計とも違っていたので、以下に書き留めておこうと思う。

22年目の復活劇

「プロマスター タフ」を買ってしばらくすると、徐々に経済的な余裕が出来てきた。そして、何年かに一度無性に時計が欲しくなって購入してきた。と言っても、高級時計ではなく、どれも自分の好みに合う実用的な時計ばかりだ。ほとんどは機械式時計だったが、同じシチズンのエコドライブも1本ある。

そんなわけで、現在、手元には機械式時計が5本とエコドライブが2本、そして「タフ」よりも前に買った電池式クオーツ時計が3本ある。

当然、クオーツ時計はどれもとうの昔に電池が切れてピクリともしない。それどころか1本のG-Shockは電池が液漏れして、プラスチック製のボディを割って外部にまで滲み出していた。

機械式時計も使わないものは止まったままだが、ネジさえ巻けば動き出す。ほとんどは買ってから10年以上たっているから、本当ならオーバーホールするべきだし、遅れが気になるものもある。でも、普段使いするぶんには何の不便も感じない。

植木みたいなヤツ

そして「プロマスター タフ」。

この時計はずいぶん長い間、平然と動き続けていた。年月とともにカレンダーの日付のずれが大きくなるが、それもなんのその、貪欲に光を吸収してエネルギーに変え、時を刻み続けたのである。とにかく電池式時計がすべて止まったあとも、この時計だけは何年も動き続けた。

しかし、室内照明だけでは光量が不足するのか、いつしかこの時計も歩みを止めていた。

でも、「あれ?」っと思って取り出し、光に当てると、おもむろに動き出す。機械式時計のいかにも機械然とした合理的な挙動とはちょっと違って、叩き起こされて寝ぼけているように足取りが覚束ないのだが、でも時を刻もうとする意欲は垣間見える。

時計というより植木かなにかみたいだが、その後の何年間かはそういう付き合い方が続いた。ふと思い出してのぞいてみると止まっているから、陽の当たる窓辺に出してやる…。

大らかなアドバイスに従ってみた 〜窓辺に置く〜

しかし、やがて止まっていることに慣れてしまった。

そして2年ほど前、数年ぶり——ことによると10年ぶりぐらい——に収納ケースから取り出し、天井の照明にかざしてみたが、ウンともスンとも言わなくなっていた。

ダイヤル(文字盤)のソーラーパネルが劣化してしまったのかと半ば諦めつつ、ネットで調べてみたら、陽の当たるところに2〜3日置いておけば復活すると書いてあった。なんとも大らかなアドバイスで、やっぱり時計というより植木かなにかみたいだ。

やってみた。

すると、たしかに動き始めた。動き始めたんだが、寝起きどころか、寝たきりだった病人を無理矢理歩かせているみたいで、精密機械の緻密な動きからはほど遠い。

実に気まぐれで、動いたと思ったら歩みを止め、2〜3秒してまた動き出す。2秒ぶんを一気にジャンプしたりもする。と言うか、そっちのほうが基本パターンになっていた。2日ほどでおおむね正確に時を刻むようになったが、その不規則な動きは消えなかった。そして、光のないところにしばらく置いておくと止まっている。

この時は、窓辺に3日間置き続けたところで諦めた。

電池不要のEco-Driveといえども、こんなに長期間放置すれば劣化するのだ……そりゃそうか……それにしてもこの時計に対して冷たかったよな、ほとんど着けることもなかったし……etc.

もう一度 気長に挑戦

そして、ひと月ほど前。

1〜2本だけ残して、あとは売り払ってしまおうという考えが頭をよぎり、手持ちの時計をすべて点検してみた。G-Shockの液漏れを発見したのはこの時だ。

動かないのでは話にならないから、最後の確認のつもりで「プロマスター タフ」をまた窓辺に置いてみた。日が暮れたら卓上スタンドの下。就寝中の暗闇は仕方ないとしても、起きている間は極力光を浴びせ続けた。

間欠的な動き

2年前と同じように、不安定で間欠的な動きが始まった。でも焦らずに光に晒し続ける。

2〜3日して、遅れていた時刻を合わせてみたら、時計らしい——と言うよりクオーツらしい——1秒ごとの動きを始めた。でも、気づくとまた間欠的な動きに戻っている。

気長に待った。2秒に一度しか動かない不審な動きはその後も続いたが、昼は窓辺、夜はスタンドの下というルーティンを繰り返した。そのうち、動きが不安定な割に時間が遅れていないことに気づいた。

難があるのは秒針の動きだけで、クオーツは正常に動いているのかもしれない。

それでは値が付きそうもないが、その健気さには心惹かれるものがある。「やっぱり手元に置いておくか」などと考えながら、さらにルーティンを繰り返した。

その後も時間はほとんど狂わなかった。そして長針を動かすと、そのたびに秒針が1秒刻みになる。

10日で完全復活!

そして、3〜4日前。

気づくと間欠的な動きが消え、常時1秒刻みで動くようになっていた。それ以降、少なくとも僕が見ているときに不審な動きをしたことはない。遅れもまったくない。つまり完全復活したのである。

厳密に数えていたわけではないが、たぶん10日ほどかかった。

今は陽の当たる窓辺に置くこともなく、一日中机の上に置いて、たまに気が向いたら腕にはめてみる。昼間は窓から陽の光が射し込み、暗くなれば天井照明とスタンドの灯りが照らす。就寝中は真っ暗闇の中だ。

二次電池も大丈夫そう

この時計についてネットで調べていたら、光発電Eco-Driveは、交換の必要な一次電池は使用していないが蓄電のための二次電池を備えていて、この二次電池はいずれ劣化するという情報があって、もしかしたらその二次電池がもうダメなのかもなあと考えたりもした。

光のない所ですぐ止まってしまったら、二次電池にガタがきているということだろう。

22年もたっているのに劣化がまったくないとは思わないけれど、少なくとも今のところ、寝ている間に遅れることはない。夜が明けるまでの数時間で二次電池の蓄電が切れることはないということだ。

大したものだと思う。

最近は自動巻き時計が再評価される一方で、ソーラー時計もごく一般的なものとなり、さらに電池交換が不要であるうえに勝手に誤差を修正してくれる「電波ソーラー時計」というものまで現れた。22年前にはおそらく想像もできなかったこうした動向の中で、光発電Eco-Driveという技術がどういう位置を占めているのかはよく分からない。

でも、Eco-Driveが残した功績はやはり大きい。クオーツ時計の唯一の弱点と言ってよかった電池交換を不要にし、利便性を高めただけではない。その結果、環境に負荷のかかる電池を時計から排除することに成功したのだ。Ecoというネーミングには、当初から経済性(economy)と自然環境(ecology)を両立させるという強い意志が込められていたのだと思うが、僕の「プロマスター タフ」一つをとっても、その意志が高い次元で実現されていることが分かる

22年たった今も、まるで自動巻き時計のように電池なしで正確に時を刻んでいるのだから。

今もこのルックスが好き

ここまで言い忘れていたけれど、いま見てもこの時計のルックスは好きだ。

何よりも、目いっぱい大きくて太いアラビア数字が好きだし、12時位置の三角や9時位置の横バーもいい。長めの秒針や分針もいいし、アロー形の時針もインデックスや他の針といい感じでバランスが取れている。

ダイヤルのデザインとともにこの時計を特徴付けているのがケプラー繊維のベルトだろう。色(オリーブ)といい感触といいステッチといい、これぞミルスペックと言いたげな押しの強さで迷いがない。ベルト穴に施された大きな鳩目も実に魅力的だ。

そうしたディテールに囲まれたとき、チタンという素材が実にしっくりとくる。チタン自体にはとくに思い入れはないのだが、全体を見た時、ここはチタン一択でしょ、という気にさせられるから不思議だ。それに、この軽さはステンレスではぜったいに実現できないものだし。

じゃあ、なんでメインで使わなかったんだという話だが…やっぱ、やめとこう。

ちなみに、このモデルは1997年度のグッドデザイン賞を取っている。リリース情報によると、デザイナーはシチズン社内の飯田健一という人だそうだ。いい仕事をしてくれたと思う。

CITIZENの「プロマスター タフ」 おまけ

モデル名もいつ頃買ったのかも思い出せなかったのでネットで調べはじめたのがだが、シチズンの公式サイトでも——「歴代モデル検索」というページまで用意されているのに——見つからず、けっこう手こずった。フリマや中古販売のサイトで断片的な情報を拾い集め、Cal.7828の型番PMU56-2371かPMU56-2373だというところまで絞ることができたが、そのどちらなのかは今も分からない。

ケースバックに7828という数字が刻印されているから、キャリバーが7828であることは間違いないが、同じキャリバーを持つ複数のモデルが同時に発売されたみたいで、PMU56-2371とPMU56-2373という2つの型番を目にするが、両者の差異がどこにあるのか最後まで分からなかった。サイズが違う(片方がボーイズサイズ?)と思わせるような情報もあったが、見分けがつくような写真もない。仮にサイズが違うのだとしても、外観はほとんど同じで、個別の写真を見ても区別がつかないのだろうと思う。

taki110という人のブログに当時のカタログらしきものが写っていて、それが完全に見えていたらすべての謎が解けたのだろうが、その上にドンとtaki110氏所有の実機が置いてあるため、肝心な部分が見えない。

カタログにはケプラーバンドのものが2本と金属バンドのものが1本並んでいるが、型番とスペックが見えるのは2371だけなのだ。すぐ隣の、双子のように瓜二つのやつが2373だろうと察しはつくが、型番もスペックも完全に隠れている。その隣の金属バンドのものも同様だ。歯痒い。

taki110氏が所有しているモデルと僕のとは、ブログに掲載されている写真を見る限りまったく同じだ。ケースバックの刻印も、ボカシを入れてあるシリアルナンバー(?)以外は一字一句同じ。

taki110氏は型番を「PMU56-2373」と言っているので、それに従えば僕のも2373ということになる。ただ、なぜそう言い切れるのかが文面からは分からなかった。

また、このモデルが1997年度のグッドデザイン賞を取ったことは前にも触れたが、受賞対象の商品名として記載されているのは2371だけで2373はない。これも謎といえば謎。カタログでは瓜二つなのに、なぜ2371だけなのだろう。サイズ違い説に説得力を感じるのはこれも理由の一つ。サイズが違えば別物といえば別物だろう。

ちなみに、このグッドデザイン賞のリリース情報に発売日が記載されている。1997年4月10日だそうだ。

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