実に唐突なんだけど、郵政民営化って結局やって良かったのだろうか、良くなかったんだろうか。
Wikipediaによると「日本郵政グループ発足式」が開催されたのが2007年10月1日だから、今世紀初頭に登場した異色の首相 小泉純一郎の「劇場型政治」によって民営化されてからもう11年も経ったことになる。さすがにこれだけ経てば混乱も収まり、メリットもデメリットも明らかになって、客観的な評価ができるはずだ。と言っても、もちろん僕には知識も能力もないから評価なんてできないんだけれど。
でも、ふと疑問に思ったことがある。次のようなことだ。
民営化によって郵政公社職員が職を失ったり、非正規職員の増加などによって給与が下がったりしたとしたら、それは国民にとってデメリットとしてカウントされなければならないのではないか。
メリットのことはよく分からないので、ここでは触れない。差引プラスなら「良かったね。小泉さん、ありがとう!」と喜べばいいと思うのだが、上記のようなことをちゃんとデメリットとして計算に入れたうえでの差引ができているのか、ということだ。
郵政民営化は小泉首相によって「行政改革の本丸」と言われていたから、一見、国民の税金を食い潰す赤字事業であったかのような錯覚を覚えるけれど、(ちゃんと調べたわけではないが)トータルでは黒字だったはずだ。しかも、人件費は事業収益で賄っていた。つまり、民営化しても1円も税金の削減にはならなかったのだ。
仮に公社職員の人件費が税金で賄われていたとしたら、民営化は国民にとってメリットとなっただろう。税負担が軽減するわけだから、減税できるかもしれない。納税者という観点から見れば国民はそのメリットを享受できる。
でも、たとえそうだったとしても、国民の一部である公社職員が雇用を失ったり給与が減ったと考えれば、「被雇用者の集まりとしての国民」という観点から見るとマイナスになる。失業者が増えたわけであり、給与所得が減ったのだから。そして、おそらくこのマイナスは現実に発生している。税負担は1円も軽減されなかったのに。
もちろん郵政民営化にはいろいろな目的があっただろうし、国民に大きなメリットをもたらしたものもあるのかもしれない。しかし、プラスの影響も多岐に渡るのかもしれないが、マイナス面も細かいところまで見極めないと正確には計れない、ということだ。
郵政民営化は、税負担の軽減という点では国民になんの利益ももたらさなかったが、雇用と所得を(全体からすればほんのわずかとは言え)縮小させたという点で国民生活を圧迫した、たぶん。でも、この点は「公社時代に比べて人件費をこれだけ抑えることができました」という尺度でしか問われない。人件費率が下がれば下がるほど「見事なコストカットだ」と賞賛されるのかもしれないが、カットされたのは公社職員という国民に他ならなくて、その国民的損失は行政の決算にも日本郵政グループの損益計算書にも出てこない。
うまく言えないけれど、公務員削減とか公共投資削減などによる行政支出削減を、収支報告だけで考えてはいけないということだ。行政の収支は改善しても、そのツケが他のところで国民に回されることがある。そこまで含めて評価しないと意味がないはずだ。
と、くどくどと書いてきたけれど、小泉純一郎は「民にできることは民で」という大方針を持っていたわけだから、収支がどうのこうのという考えはそもそもなかったのかもしれない。だとすれば、ここまでの話はまったく意味がなくて、問題にすべきは新自由主義とかアメリカの圧力についてだということになるのだろう。そうなるとぜんぜん別の話になってしまうから、深入りせずに端的に印象だけを言うが、彼のやったことで、その後の日本にプラスになったことなんて何も思い浮かばない。
あえて言えば北朝鮮の拉致問題だけれど…。
大きな前進があったのは確かで、5人の被害者やその家族の帰国は画期的な出来事だったけれど、その後の進展がまったくないことや、日朝関係がかえって悪化したように見えることも事実で、あれだけ喜ばしい前進があったのにトータルで見るとそんなにプラスにはなっていないような気がする。それを北朝鮮のせいにばかりしていてもダメだと思う。
郵政民営化に関しても、それで何かが良くなったとは感じられない。サービスが後退したという実感もないが、何かが向上したという実感だってない。小泉政権のやったことで実害が大きかったのは派遣法やその他の規制緩和であり、これらはその後の日本社会を大きく変えてしまったと思うが、じゃあ郵政民営化はあれだけ大騒ぎして解散総選挙までやったのに、その後の日本にいったい何をもたらしたんだろう。つまり郵政民営化って何だったんだろう。
最近聞こえてくるのは、郵便局で働く人たちの過酷な労働条件や低賃金の話ばかりだ。正規職員と非正規職員の格差を減らすために正規の手当を削減するという話もあったし。
僕が無知なだけかもしれないが、民営化によって何かが変わったとは感じられない以上、結局働く人が割を食っただけじゃんということになる。ということはつまり、国民が損しただけなのかと。しかもそのことは、(よくわからんけど)国の収支にも日本郵政の収支にもそれとわかる形では現れない。まったく関係のない労働力調査や家計調査の中に微かに現れるだけ。
まあ、そんなところに考えがいたって、無性に腹が立ってきたというわけだ。ヘンかな。でも、こういうことは他にもたくさんあると思う。一つの収支決算だけを見ていても物事は理解できない。そこに現れない数字があるかもしれないから。
そんなわけで、郵政民営化って、結局どうだったの?
※2019年1月4日、後半部分をかなり修正した。