本/映画

R・バールキ監督『パッドマン 〜5億人の女性を救った男〜』

2018年インド
監督・脚本:R・バールキ
原作:トゥインクル・カンナー
(原題:The Sanitary Man of Sacred Land
出演:アクシャイ・クマール、ソーナム・カプール、
ラーディカー・アープテー、アミターブ・バッチャン

国連での演説場面がサイコー!これだけでも見る価値がある。

いやー面白かった。
全体的な作りは前時代的というか洗練されていなくて、日本の粗製濫造のテレビドラマより劣るのかなと思わないでもないが、それでもパワーがあって、惹きつけるものがある。中でも目が釘付けになったのが国連での演説シーン。語彙の乏しい、下手くそな英語で自分がしてきたことや信条を話すのだが、それが爆笑の渦。彼の人柄を飾ることなく体現していて、しかも真実にあふれている。この部分を見るだけでも千数百円を払う価値があると思う。2時間17分もあって途中で「インターバル」の字幕が出る(でも休みなしで上映された)んだけど、まったく飽きなかったし疲れもせず、エンディングまであっという間だった。

物語

この話には実在のモデルがいて、インドで生理用ナプキンを普及させた男として世界的にも知られた人だそうだ。

今世紀に入った頃、インドではまだ生理用品が高価でほとんど普及していなかった。多くの女性が使っていたのはボロ布で、けっして清潔ではないから感染症にかかる人も少なくなかったという。生理期間中は学校や仕事を休むのは当たり前。家の中でも、家族から離れて食事をしたり、部屋の外の檻のようなスペースで寝る慣習が残っていた。要するに女性の生理は“穢れ”“恥ずかしいこと”とされ、見えないところに隠されていたのだ。

主人公のラクシュミは、新婚の妻ガヤトリが雑巾よりも汚い布きれを使っていることにショックを受け、妻のために薬局でナプキンを買ってくる。だが、当時市販されていたものは55ルピーという高価なものだった。(この映画のホームページでは1,100円ぐらいとされているが、舞台が田舎なので感覚的にはもっと高そうだった。3,000円とか4,000円に相当するのではなかろうか。)妻はすぐ返品してくるように言う。しかし、自分の妻に清潔で安全な生理用品を使ってほしい、そして生理期間中も安心して日常生活を送ってほしいというラクシュミの気持ちは変わらない。そこで、彼は自作ナプキンに挑戦し始める。清潔で安価なナプキンを自前で作ってしまおうというわけだ。

妻も嫌がるため、試着してくれる人を探して回るが、それが悪い噂となって広がっていく。女性の生理は完全にタブーの領域であり、男も女も触れてはならない事柄だった。挙げ句の果てにラクシュミは村の人々に吊し上げられ、妻は実家に帰ってしまう。それでも彼は諦めず、村を出てナプキン作りに邁進する。

高等教育を受けていないラクシュミは、専門知識を得るために大学教授の家の使用人になるなど、常識では考えられないような執着心を持ってナプキン作りの手がかりを求め続ける。やがてセルロースという素材を知り、またそれを使ってナプキンを製造する機械を輸入できることも突き止めるのだが、それには3,500万ルピー(約5,600万円)という高額の資金が必要だった。

大学教授は融資を受けることができるのではないかと助言したが、ラクシュミはそれを良しとはしなかった。高額の投資をすれば、製品も高価なものになる。彼にとってそれでは意味がないのだ。そこで彼は、その高額な機械を参考にして、安価なナプキン製造機の開発に取り組む。そして、わずか65,000ルピー(約10万円)で作れる機械の開発に成功したのだ。そしてその機械がある工科大学が主催するイノベーション・コンテストでグランプリを受賞する。

ここからがさらにスゴイ。彼は特許を取ることも拒絶するのだ。これも高価な機械のときと理由は同じで、それによって製品価格が上がるのは彼の本意ではないからだった。(ただし、最終的には特許を取ったのかもしれない。それらしいやりとりがあった。)

結局、彼が発明した機械のお陰で55ルピーしたナプキンが2ルピーで買えるようになった。それだけではない。彼は機械製造はその後も続けるが、その機械を使って商品(ナプキン)を製造・販売するのはインド各地の女性たちに任せた。女性たちは清潔で安価な生理用品を手に入れただけでなく、働く場をも獲得したのだ。

生理にまつわるさまざまな理不尽から自分の妻を解放させたい、というごく個人的な思いに始まった彼の探求が、インドの女性解放において大きな足跡を残すことになった。それが国連にも評価され、冒頭に書いたスピーチとなるわけだ。そして、しつこいようだけど、そのスピーチがなんとも魅力的なものだった。

ソーナム・カプールという女優がむちゃくちゃキレイ

タブーに首を突っ込み猪突猛進するラクシュミを、世間は狂人扱いして排斥した。それは結局のところイノベーション・コンテストでグランプリを獲得しても変わらなかった。彼は夢を実現したにも拘わらず、いまだ報われずにいた。だが、そんな彼にも救いの女神がいた。

都会育ちで父は大学教授という、ラクシュミとはまったく住む世界の違うパリー。偶然出会った彼女がラクシュミの機械で製造したナプキンの第1号の試着者となり、その後も彼をサポートするのである。イノベーション・コンテストのことを彼に教えたのも彼女だった。最初のうち、営業活動を一手に引き受けたのも彼女だった。生理用品を男が売ろうとしても上手くいくはずがない。彼女が一軒一軒ノックして女性たちと話し込み、清潔で安価なナプキンの意義を伝えていったのである。製造や販売を担う人材として地域の女性たちを引き入れたのも彼女だった。

で、このパリーを演じるソーナム・カプールという女優(上の写真の右)がとんでもなくキレイだった。インドとか中東の女性には目が大きくて息をのむほど美しい人がいるけれど、この人の場合はそれとは少し違うかもしれない。当て推量で言うと、白人の血も引いているのではないかなと思う。目が大きいのは共通だけれど、どこか見慣れたようなキュートさがあって、都会的な感じがする。ハリウッド映画に出ていても違和感がないのかもしれない。わからんけど。

ついでに言うと、主人公のラクシュミを演じたアクシャイ・クマール(上の写真の左)は、ハリソン・フォードやジョージ・クルーニーを思わせる男前ではあるけれど、一番似ているのはニコラス・ケイジではないかという、いい感じの顔つきをしている。ボリウッド映画界のトップ男優の一人らしい。

一つの勧善懲悪なのか?

演技陣の魅力も含め、エンターテイメントとして本当に面白いと思うのだが、単なる成功譚ではないところも味噌だろうと思う。ビル・ゲイツとかマーク・ザッカーバーグのサクセス・ストーリーとは違うのだ。自分も含めて誰かが儲かる仕組みは、結局のところ商品価格を押し上げ、利用できる人を減らすことになるという考え方が最後までブレない。根底には新自由主義とは正反対の古くて懐かしい価値観がある。その意味では時代劇の勧善懲悪に近いものがあって、ヘタをするとウソ臭く感じてしまいそうだが、実在の人物がモデルだからそうはならない。

でも、これこそが「ソーシャル・ビジネス」なのであり、時代の最先端のビジネス形態なのだ。この回り回った感じもまた興味深い。

モデルとなった実際の「パッドマン」の本名はアルナーチャラム・ムルガナンダムというらしい。

(1月8日、ユナイテッド・シネマ福岡ももちにて鑑賞)

九州で1館だけ、しかも20:45からの1日1回の上映だけだったので、なかなか足が向かなかったのだが、意を決して観に行って良かった、本当に。