フランスの高校生たちの運動

フランスの高校生たちが学校を封鎖し、一部で暴動の様相を呈している――そんな投稿をXで見かけるようになったのは先月下旬だったと思う。「高校生が?」と驚いたが、火の手が上がる光景や警官隊とにらみ合う様子の動画や写真が次々に流れてくる一方で、なぜそういう事態にいたったのかはいま一つよく分からなかった。

今月3日にパリ在住の日本人の方が書いたレポートを見つけて、ようやくこの運動の本質が理解できた。

森野咲さんの「パリの向こう側|森野咲の日本脱出記」(the Letter)の10月2日付「フランスの高校生たちはなぜ高校を封鎖しているのか――パリからの現場報告」だ。
https://saki-morino.theletter.jp/posts/4ec1ca3b-e65a-4519-b77f-9e42d1f0f5cf

一つの高校で始まり、全国の高校へ波及

発端となったのはパリ南東郊外・クレテイユのサン=テグジュペリ高校。この高校で校舎の設備不良や教員の人員不足などへの抗議として「高校封鎖」が始まると、またたく間に全国へと広がり、10月1日には全国640の高校が封鎖された。そして報道によれば、この日だけで1949人が身柄を拘束され、警官284人が負傷したという。

森野さんの最新の記事によると――

「既に3週目に突入したフランスの高校生の運動。2026年10月6日、ついに全国一斉のデモが開催された。主催者発表によれば、全国で45万人、うちパリでは10万人が参加し、全国3700校の高校のうち1800校が封鎖やデモ・教育省による閉鎖の対象になったという。つまり、フランスの全国の高校のほぼ2校に1校が何らかの形で運動の影響を受けたことになり、今回の運動は、ここ20〜30年で最大級の高校生運動と呼べるだろう。さらに高校生と連帯する形で、今日はフランスの大学の9割も封鎖や動員の影響を受けた。首都パリでは、アンリ4世校や高等師範学校などの保守的なエリート校にまで運動が広がった。」
(10月7日付「フランス全国高校生デモ、歴史的な動員数に」)

高校生が始め、大人たちへ伝播

乱暴者が騒ぎを起こしているという類いの話でないのは明らかだろう。また、フランス政府は当初「極左政党や勢力が裏で操り、政治的に利用・煽動している」と非難していたが、それもその場しのぎの的外れな言い草だ。一つの高校の生徒たちがSNSで連絡を取り合って立ち上がるやいなや、瞬く間に全国の高校へと波紋のように広がっていったものだ。その運動の輪に教師たち、大学生たちも加わっていった。

サン=ドニの高校では教員と職員が「壁」となって生徒を守った(森野咲さん「パリの向こう側|森野咲の日本脱出記」より)

高校生たちが学校を封鎖したのは、自分の高校の責任者たちと交渉するためだった。その行動を支持する教師や近隣の大学生がサポートに入り、やがて他の高校にも波及していくと高校生組合「Union syndicale lycéenne(USL)」や学生組合「Union étudiante」も動きはじめた。そして労働組合も彼らの脇を固めるように行動を共にし、農業者までトラクターで街に繰り出したのだ。

警官隊との衝突や放火などの暴力的な場面ばかりが報道されたが、それは運動の当事者によるものではなく、外部からやってきた人々の仕業であったことが徐々に分かってきている。運動の中心にいる若者たちは非暴力に徹し、切実で論理的な要求を掲げて行動しているのである。

彼らが求めるもの

で、彼らが何に対して異議申し立てをしているかだが、これはもう、日本では想像もできないところまで荒んでしまった教育環境全般に対してだ。知れば知るほどヒドい。

劣悪な学校施設と教員不足の改善

発端となったサン=テグジュペリ高校の校内の写真を見たが、壊れた椅子が修理も補充もされないため、座って授業を受けられない生徒がいるうえ、トイレも使えない状態だという。あちこちで天井のボードが落ち、雨漏りもしていて、壁に水が溜まり、ドブネズミやゴキブリが出る。誰が見ても勉強をするどころではない環境のまま放置されているのだ。しかも教職員も足りない。

正直言って、敗戦直後の日本よりヒドいのではないかと感じたほどだ。これがこの学校に限った問題ではないから、全国で声が上がったわけである。

今日、Ryoko Paris Guide(@RyokoParisGuide)というパリで旅行ガイドをされている日本人の方の動画を見つけた。いつもは楽しげにパリの生活を投稿しているチャンネルだが、「【フランスの学校の現実】母として、もう黙っていられない。」と題して、パリの公立中学に通っている娘さん(4年生)とともに、中学校でも状況は変わらないという話をされていた。

Ryoko Paris Guide @RyokoParisGuide チャンネル登録者数 11.3万人

娘さんの中学校にはそもそも生徒用のトイレが校舎内になく、用を足すには校庭に出なければならないのだそうだ。しかも女性用はわずか5〜6個しかないうえ、学期が始まったときは水が通っておらず使えなかった。もちろんトイレットペーパーもない。だから、昼休みにトイレのためにわざわざ家に帰っていたのだそうだ。今も4個は故障しているという。

ないのはトイレだけではない。冷暖房もないから、冬はみんなコートを着込んで授業を受けるのだという。体調を崩す生徒も多そうだが、保健室もない。

教員の欠員も深刻だった。中学1年のときは半年以上歴史・地理の授業がなかった。今年は1年生と2年生のフランス語――つまり国語ということだよね――の教師がいないままだという。娘さんは2年間音楽も美術も授業が受けられなかった。

ここ何年か日本でも教師の欠員が深刻だというニュースを目にするが、誰かがカバーしているのだろうと呑気に考えていた。でも、同じような事態が日本でも起こっているということだろうか。

平等・公平の確保

サン=テグジュペリ高校の生徒たちは、彼らが強いられている劣悪な環境をただ「あれもこれも」とあげつらったわけではない。都市部には快適な条件のもとで授業を受けている生徒がいる一方で、自分たちはとても勉強に集中できる状況にない――これは教育を受ける権利の侵害であり、この状態で高等教育への挑戦を横並びで競わせるのは法の下の平等に反すると訴えたのだ。

たんに老朽化したまま放置された設備を直せという話ではない。それは第一歩にすぎず、違憲状態に目を向けようとしない教育行政を根本から見直せと主張したのだ。

論理的で冷静でたくましい高校生たち

森野さんやRyokoさんの他にも日本語でリアルな情報を発信してくれている人がいる。ザイナブ佐藤(@MoqQist)という日仏にルーツを持つ方は、運動の当事者たちが発信した生の情報を、詳しい解説を付けてX上で次々と紹介している。お陰で何人もの高校生が自らの主張や思いを語る姿を見ることができた。現地の空気(=運動の本質)がストレートに伝わってくる。

動画の中の若者たちは、日本の大抵の政治家など足元にも及ばないと思われるほど、理路整然としていて、説得力がある。しかも、誰もが極めて冷静で、本当に驚かされた。

同世代の呼応――利他の精神

彼らの要求は多岐にわたるが、それは後回しにして、同じ高校生として運動に参加した生徒たちの間でもいろいろなグラデーションがあることに触れておく。森野さんの最初のレポートを読んで、とても印象深かったことだ。

設備の不備や教員の不足は多くの学校が直面している現実だが、当然、学校によって程度が違う。実際、森野さんがパリのレピュブリック広場の集会に参加した高校生にインタビューすると、こんな言葉が返ってきた。

生徒A「私の高校は、そこまで深刻な状況ではありません。でも…(中略)…若者はみんな、自分たちが大変な状況にいることに気づいています。だったら外に出て、状況を変えようとした方がいい」

生徒B「自分たちもここにいる、あなたたちは一人じゃない、とほかの人たちに示すことでもあります。若者みんなで助けるんです」

生徒C「いまやらなければ手遅れになると思います」

10月1日レピュブリック広場で急遽開催された集会(森野咲さん「パリの向こう側|森野咲の日本脱出記」より)

最初に声を上げた地方在住の生徒たちから見れば、この三人の生徒は、どちらかと言うと対岸にいる恵まれた存在だったのかもしれない。だが、三人はそれを認識しつつも、この問題を同世代が被る不平等・不公平として共有しようとしているのである。この仲間意識の裏には利他の精神がはっきりと見て取れる。そこに新鮮な驚きを感じた。

たとえば、沖縄に住む人々の苦しみに共感できない「本土」の人間とはまったく別の精神構造がある。

だから、恵まれた環境にあるエリート校まで含めた全国の半数の高校が参加するほどの広がりが実現したのだろうと思う。そして、教師や大学生をはじめ、大人たちも共感し、彼らを支援する。

フランスの教育環境の劣悪さにも驚いたが、利他の精神をベースにしたこの人間的連帯の力が自然と働いていることに、さらに驚かされた。日本ではこうはならないだろうと思う。

下の写真は10月6日に行われたパリのデモの様子(「パリの向こう側|森野咲の日本脱出記」10月7日より)。この日全国一斉にデモが行われた。主催者発表で45万人が参加。「デモの前方や周囲を組織化された労働組合が歩き、その後方や道路の中央を、高校生たちが思い思いの言葉を書いたプラカードを手に歩いていた。」

教育行政全般へのアンチテーゼ

警察(=政権)による弾圧のひどさや、すでにある経済格差と貧困対策の不足、そしてその格差をさらに拡大させるような教育制度など、詳しく記録しておきたいことは他にもたくさんある。

だが切りがないので、最後に高校生たちが掲げる10の要求と、それについてのChatGPTによる解説を載せておく。要求は学生団体 Union Étudiante と Union syndicale lycéenne(USL) が共同で10月5日に打ち出したものだ。

内容は広範囲にわたるもので、詳しく触れられなかったことに対しての具体的な要求も含んでいる。

また、当初は木で鼻をくくったような対応をしていたフランス政府は、運動の劇的な広がりを前に少し軟化する気配を見せ始めたが、いまだ具体的な改善策は示していない。

若者の要求 10の緊急対策

「若者たちが立ち上がったのは、もはや自分たちの置かれた状況に耐えられなくなったからだ。老朽化した校舎、飢えに苦しむ生徒、高校最終学年の教師不足、そしてパルクールサップやモンマスターといった制度による社会的・人種差別的な選抜――こうした困難は、あまりにも多くの生徒にとって日常的な現実となっている。こうした正当な抗議行動に対し、政府は弾圧という手段で対応し、警察による暴力行為や、数千人もの若者や未成年者の逮捕に至った。

このプラットフォームは、直ちに実施すべき10の緊急対策と、教育制度を根本的に変革するための構造的対策をまとめたものです。」

1 – 学校および大学の建物を改修するための緊急計画

老朽化して不衛生な学校や大学の建物を改修するための緊急計画を実施する。気候変動の影響に対応できるよう施設を改修する。具体的には、熱波に対応するための空調・冷房システム、寒波に耐えるための適切な断熱・暖房設備などを設置する。

各施設に対し、施設の維持管理と清潔で機能的な衛生設備の確保に必要な人的資源および物的資源を保証する。

2 – 教育、医療、支援、指導スタッフの大規模な雇用

全国教育職員の大規模な採用計画を実施し、各教育機関において少なくとも以下のことを保証する。

  • 生徒500人につき看護師1人。
  • 学生500人に対して心理学者1人。
  • 生徒500人に対してカウンセラー1人。

契約社員ではなく正規の教員ポストを増設することで、すべてのクラスに教員が配置され、学校間の格差を解消する。

さらに、AESHの地位を確立し、800の追加雇用を創出する。

3.学校や大学のスケジュールを見直す

国民教育における子どもの時間に関する市民条約の取り組みに沿って、学校の時間割の再設計を行い、高等教育においても、生徒や学生のニーズと幸福をより尊重するための取り組みを行う。

特に、生徒一人ひとりが良好な環境で昼食をとれるよう、最低でも1時間30分の昼休みを保証してください。

大学入学資格試験と高等学校教育の改革について、改めて考えてみましょう。

4 – ParcoursupとMon Masterによる選考を終了する。高等教育機関に25万人の定員を創出する。

ParcoursupとMon Masterプラットフォームによる選抜を廃止し、来年度から高等教育機関の定員を25万人増員する。これにより、高校生はアルゴリズムによる選抜を受けることなく、希望する分野のプログラムにアクセスできるようになり、希望するすべての学生が修士号取得を目指せるようになる。利用可能なプログラムの認知度を高めるため、選抜は行わずに、全国的な中央集権型出願プラットフォームを維持する。高校卒業資格は学士号取得への道を開き、学士号は修士号取得への道を開くべきである。

5 – 高校生が意思決定に真に参加できるようにするための学生民主主義の抜本的な改革

生徒会(CVL)および生徒生活評議会(CAVL)の選挙において、組合代表を確実に選出するための名簿式投票制度を導入し、地域内のすべての高校生が代表者を直接選出するとともに、学校運営委員会における生徒の議席数を増やす。すべての高校生は、社会経済委員会(CSE)の選挙で投票できる必要がある。

6 – 奨学金を増額し、すべての人に住宅手当を復活・増額する

学生への奨学金を月額200ユーロ増額し、12ヶ月にわたって支給することで、新たに30万人の学生が奨学金制度を利用できるようにする。最終的には、すべての学生が学業に必要な経済的支援を受けられるよう、月額1,337ユーロの学生生活手当を支給する。

若者への住宅支援を削減する予算措置を撤回すべきだ。

留学生への住宅手当を復活させる。住宅手当の支給額を増額し、14万7000人の学生が手当を受けられなくなる計算方法の変更案を撤回する。

7 – すべての学生が1ユーロの食事を確実に利用できるように保証する

学生が1ユーロの食事を確実に利用できるようにし、大学のサービスネットワークが需要を満たすために必要なリソースを提供する。

8 – 留学生に対する授業料の差別化を導入した「ウェルカム・トゥ・フランス」計画を撤廃し、CVEC(学生・キャンパスライフ貢献金)を廃止する。

「ウェルカム・トゥ・フランス」プログラムと、非ヨーロッパ圏の学生に対する差別的な授業料制度を廃止する。これらは高等教育における国籍優遇と人種差別的な論理を助長するものである。CVEC税も廃止すべきである。

9 – CROUSの家賃を凍結し、家賃規制を恒久化し、CROUS住宅の大規模な改修と建設を行う。

2023年以前に凍結された家賃に基づき、CROUSの家賃凍結を再開する。不衛生なCROUSの学生寮を改修する。2027年までに15,000戸の新たなCROUS学生寮の建設に着手する。緊急措置として、学生の10%をCROUSの学生寮に入居させる必要がある。

10 – 高校生運動と学生運動に対する弾圧と警察の暴力行為を終わらせる

高校生および大学生の運動に関連するあらゆる形態の弾圧を終わらせること。暴力行為を行った法執行官は必ず起訴されること。動員活動に関連する欠席は、考慮も罰則も受けないことを保証すること。 総じて、教育機関におけるあらゆる形態の弾圧を放棄し、若者の表現の自由と結社の自由を保障すること。これは、パレスチナにおけるジェノサイドとの闘いにおいて用いられた弾圧とは全く対照的である。

https://union-etudiante.fr/10mesures/?utm_source=chatgpt.com

ChatGPTの説明

### 要求の特徴

面白いのは、これが単なる「高校の予算を増やしてほしい」という運動ではないことです。

大きく分けると、

**① 教育への公的支出を増やせ**

– 校舎

– 教員

– 看護師・心理士

– 大学定員

**② 学生の生活費を支えろ**

– 住宅補助

– 1ユーロ食堂

– 奨学金

– 外国人学生の授業料

**③ 教育制度そのものを変えろ**

– Parcoursupの選抜廃止

– バカロレア改革の見直し

– 学校の時間割改革

**④ 高校生を「管理される側」ではなく政治的主体として扱え**

– 生徒代表の権限拡大

– 抗議への参加を理由とする処罰禁止

– 警察による暴力への責任追及

という、かなり広範な内容になっています。

そして今回の運動では、政府の2027年度予算案への反発が大きな背景になっています。教育予算は名目上増えるものの、物価上昇を考えると十分ではないとして、学生側はこの10項目を実現するために100億ユーロ規模の追加支出を求めています。Le Monde.fr

なお、10月6日の全国的な動員では、フランス内務省発表で26万6,000人、主催者側発表では45万人が参加したとされ、運動は高校生から大学生、教員、労組へと急速に広がっています。

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